笠利小教区報「アンジェラスの鐘」の巻頭言
2022年5月号聖母月
✍巻頭言「ロシア正教の復活祭」 主任司祭 ルカ内野洋平

4月24日にロシア正教の復活祭の模様がニュースで報道されていた。私たちが通常使用している暦はグレゴリオ暦(1年365日)だが、正教会は4年に1度の閏年を入れたユリウス暦で復活祭をお祝いする。
そのロシア正教の復活祭にプーチン大統領の姿もあった。ロシア正教の総主教キリル1世の主司式のもと、「世界の平和のために祈ろう」と共に祈りを捧げている映像に、異空間の世界を見たような思いがした。あの映像を見た世界の人々は、「ナニ言ってんの!バカじゃないの!」と思ったに違いない。今では、キリル1世は西方教会のみならず、正教会内部からも非難の的になっている。
ソ連時代、ロシア正教会の財産はすべて国によって没収されていたが、崩壊後にプーチンは精神的統合も国の政策に重要なメリットをもたらすと考えたのか、すべての財産を返還し、そのおかげで貧しかった教会は一変にして経済的豊かさを取り戻した。その為、プーチンとキリル1世は深い絆で結ばれていると言えるかもしれない。キリル1世はプーチンの軍事侵攻を祝福したという報道もある。それを「信仰」と「侵攻」の癒着だとしてメディアは取り上げている。全世界の正教会系のキリスト教徒は2億6千万人で、そのうち1億がロシア国内にいることを考えれば、プーチンの狙いも頷ける。
プーチンの真の狙いが、ウクライナ軍事侵攻を皮切りにソ連崩壊からの失地回復(政治的復権)だとするならば、キリル1世にとっても「正教大国」の平和実現へとつながる。十字軍による「聖戦」として捉えているのだろうか。
プーチンは幼い頃に、父親には内緒で母親と共に洗礼を受けている。父親が共産党員だったからである。彼は社会主義国家には共感がないとされている。彼の名に付いている「ウラジミール」は、ロシア最初の統一国であるキエフ公国の統治者であったウラジミール公から由来している。そのウラジミール公は、東ローマ帝国の皇帝である妹と結婚し、洗礼を受け、それがロシア正教の原点とされている。そのことがプーチンにとってウクライナへのこだわりとつながり、「正教大国」をロシア統合の理念として掲げているとされている。
ともあれ、復活したイエスさまが「あなたがたに平和があるように」と送られた祝福が、ロシア正教の復活祭の知らせからは感じられなかったことを残念に思う。「一つになるように」という祈りが、イエスさまが願った平和なのに。平和の元后であるマリアさまに取り次ぎを願う。
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